すでに始まっていた!卵巣がん治療を目指した治験

再生医療

2021年11月11日(木)にちょっとびっくりするニュースがありました。

iPS細胞からNK細胞を作って卵巣がんを治療するという治験がすでに始まっていたと報道されました。

しかも、すでに一人目の患者さんへの移植は終えてすでに2か月くらいたっているとのこと。

これまでのiPS細胞の治験に関する発表だと、治験をこれからやりますという段階で発表されていたので、変わったタイミングでの発表だなと思いました。

今回はこちらのニュースについて紹介します。

こちらの記事を参考にしています

これまでの経緯

免疫細胞を強化してがんを攻撃する

がんを治療するための方法はさまざま研究されています。

最近注目されているのが、CAR-T細胞療法と呼ばれるもので、とても期待されていますし実際効果もあるようです。

CAR-T細胞療法は患者さん自身の免疫細胞にCARという遺伝子を加え、目的のがんを狙い撃ちする能力を高めてから、患者さんの体の中に移植して、がんを攻撃しようという治療法です。

患者さんの中の細胞を、体の外で訓練して増やして戻すというイメージでしょうか。

CARという遺伝子が、がんを認識するうえでとても大切な役割をします。

iPS細胞から免疫細胞を作る

CAR-T細胞療法も十分に効果的なのですが、患者さん自身の細胞を使うので、準備に時間がかかるとか、オーダーメイドの細胞なのでお金がかかるとか、課題もあります。

iPS細胞からも免疫細胞を作ることができます。

iPS細胞を使えば、

  • 遺伝子変えてより機能を高めた細胞にする
  • たくさん増やす
  • 若い状態の細胞をつくることができる

といったメリットが考えられます。

今回はあらかじめ健康な人から作っておいたiPS細胞にCARという遺伝子を加えて、さらにNK細胞に変化させてから移植をするプロジェクトです。

どんな治験なのか?

正式名称

「GPC3発現手術不能進行再発卵巣明細胞癌で腹膜播種を有する患者を対象とした、抗GPC3-CAR発現iPS細胞由来ILC/NK細胞を腹腔内投与することの安全性及び忍容性を検討する第I相臨床試験」

…漢字がすごく多くて難しいですね。

使用する細胞

大元はiPS細胞ストックの細胞(QHJI01s04という名前がついているもの)です。

このiPS細胞にがんの目印であるGPC3というタンパク質を見分けるための遺伝子(CAR)を働かせるように遺伝子を改変します。

さらにこのiPS細胞をたくさん増やして、NK細胞という免疫細胞へと変化させます。

研究グループはこの細胞をiCAR-ILC-N101と名付けたそうです。

名前の意味

iCAR-ILC-N101とはこういう意味だそうです。

  • i …iPS細胞由来
  • CAR…CAR遺伝子を働かせている
  • ILC…自然リンパ球(NK細胞を含む免疫細胞のグループ)
  • N…NK細胞
  • 1…製法バージョン(CAR導入のみ)
  • 01…標的抗原(GPC3を認識する)

対象となる患者さん

研究所のホームページにはこう書かれていました。

「GPC3発現手術不能進行再発卵巣明細胞癌で腹膜播種を有する患者さん」

…難しい

要するに、今回狙い撃ちするタンパク質(GPC3)がある卵巣がんで、手術もできないくらいに進行してしまっている患者さんということかと思います。

実施期間

2021年4月12日~2024年3月31日

ざっと三年はかかるということですね。

重要なイベント

  • 2021年1月25日 国立がん研究センター 治験審査委員会より承認
  • 2021年3月12日 PMDAを通じて厚生労働大臣へ治験計画届を提出
  • 2021年4月12日 治験開始
  • 2021年7月 一人目の治験参加同意取得
  • 2021年8月 細胞製造開始 
  • 2021年9月 一人目の細胞移植を実施
  • 2021年11月11日 発表

今回の治験の特徴

ほかの研究でも使われているiPS細胞が使われている

今回使用されるiPS細胞はQHJI01s04という名前がついているものです。

日本人の約17%に拒絶反応が少なく移植することができるのではないかと考えられています。

これは2017年に実施された加齢黄斑変性の臨床研究、2018年に実施されたパーキンソン病の治験でも使われている細胞です。

いずれの研究でも今のところ重大な問題は発生しておらず、実績がある細胞です。

移植した細胞があまり広がらない

今回のNK細胞は、局所の細胞への攻撃力が高いものの、細胞寿命が長くなく、あまり広がらないという性質があります。

そのため、全身の様々な場所のがんを攻撃する…ということはできませんが、

  • 移植した辺りのがんは攻撃できる
  • ほかのところで自分の細胞を間違って攻撃することはすくない

ということが言えるようです。

まとめ

2021年11月11日に発表された、iPS細胞を使ったがんの治療を目指した治験の報告についてまとめてみました。

発表内容の細かい部分はとても難しいところもありますが、要するに

  • 卵巣がんの患者さんを対象に治験をはじめています。
  • 一人目の患者さんへの細胞移植も終わりました。
  • iPS細胞から作った免疫細胞を移植しました。

ということのようです。

良い結果が出ることを期待したいですね。

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